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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)9127号 判決

原告

真殿正美

ほか一名

被告

安田火災海上保険株式会社

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告は、原告らに対し、各金七五〇万円及びこれらに対する平成五年一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

一  本件は、自損事故により真殿博司(以下「博司」という。)が死亡した事故に関し、同人の両親である原告らが、被告に対し、右事故を理由に保険契約に基づく保険金を請求した事案である。

二  争いのない事実

1  博司は、近畿基礎工事株式会社(以下「本件会社」という。)に勤務していたところ、本件会社は、被告との間で、平成五年七月二〇日、次の内容の自家用自動車総合保険契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(一) 被保険者 真殿博司

(二) 被保険自動車 自家用小型貨物車(なにわ四五す九七七七)

(三) 保険期間 平成五年七月二五日午後四時から平成六年七月二五日午後四時まで一年間

(四) 種類・金額 自損事故 一名につき一五〇〇万円

2  博司は、平成五年一一月八日午前五時ころ、被保険自動車を運転中、大阪市生野区林寺二丁目九番一四号先の国道二五号線路上において、ブレーキをかけることもなく道路右側の電柱に直進して激突するという自損事故を起こして死亡した(以下「本件事故」という。)。

3  博司の相続人は、両親である原告らであり、原告らは、博司の財産上の地位を法定相続分二分の一に従つて相続した。

4  本件契約の自動車総合保険普通保険約款第二章自損事故条項三条一項二号には「被保険者が酒に酔つて正常な運転ができないおそれがある状態で被保険自動車を運転しているときに、その本人について生じた傷害については、保険金を支払わない」旨の規定があり(以下「飲酒免責条項」という。)、また、同約款第二章自損事故条項三条一項三号には「被保険者が被保険自動車の使用について、正当な権利を有する者の承諾を得ないで被保険自動車に搭乗中に生じた傷害については、保険金を支払わない」旨の規定がある(以下「無断使用免責条項」という。)。

三  争点

本件事故が飲酒免責条項・無断使用免責条項に当たるか。

(被告の主張)

本件事故は、ノーブレーキの状態で対向車線沿いに設置された電柱に激突するものである上、博司が本件事故直後に搬入された医療法人橘会東住吉森本病院のカルテにアルコール臭の記載があり、明らかに飲酒していたものといえるから、飲酒免責条項に該当する。

被保険自動車の所有者である本件会社は、同社の社員博司に自宅から現場に直行する必要から被保険自動車の使用を許していたのであつて私用による使用は許可していなかつたところ、本件事故は、博司が私用で被保険自動車を使用中に起きたものであるから、無断使用免責条項に該当する。

(原告らの主張)

カルテのアルコール臭の記載のみでは正常な運転ができない程度に飲酒していたとまではいえないし、ブレーキをかけることなく直進して電柱に激突した本件事故態様からすれば、飲酒の影響があつたというよりも朝方まで起きていたことによる居眠り運転である。

第三争点に対する判断

一  本件事故が飲酒免責条項に該当するか。

1  前記争いのない事実及び証拠(甲三、四の一、二、五ないし七、乙一、二、三の一、二、四、五の一、二、六、八、一一、一五の一、二、一八、一九、証人荒木一宏、同福田勝彦、同樋本佳央)によれば、博司は、本件事故前日、高校の同級生らと久し振りに会うことになり、大阪市中央区北久宝寺町の同級生宅で夕食を食べながら互いに近況を報告し合うなどし、その間、車(被保険自動車)で京橋で会う約束をした友人を誘い、再び同級生宅に戻つて翌日(本件事故当日)の午前三時ころまで過ごしたが、酒は飲んでいなかつたこと、その約二時間後に本件事故を起こしたが、その態様は、アスフアルトで舗装された平坦な路面の東西道路(幅一二・四メートルの直線道路であり、本件事故現場付近は暗いが、前方の見通しはよい。)の東行車線を被保険自動車で走行中、対向の西行車線を越え、ブレーキもかけず道路右側にあつた電柱に同車前部が衝突したというものであり、その結果、同車は、前部中央部が約四〇センチメートル凹損し、ボンネツトが曲損していた上、フロントガラスが割れ、損傷し、ハンドルが歪むなどして自走不能の状態になり、電柱も折損したこと、本件事故直後、博司は、救急車によつて医療法人橘会東住吉森本病院に搬入されたが、その際、救急隊は、博司からアルコール臭を確認したこと、同病院では、非常勤で当直の福田勝彦医師が博司を診たが、博司はすでに心肺停止の状況にあつたので、同医師は、人工呼吸器で呼吸を確保し、心マツサージを施したが、午前六時四四分に博司の死亡を確認したが、呼吸確保のための気管内挿管で博司の口を開けたとき、吐物の混じつたような酒の臭いがし、誰がみても明らかに飲んでいたと言える状態であつたので、アルコール臭を含むカルテを記載した上、午前九時ころまでに常勤の大学に戻つたこと、同級生宅から本件事故現場に至る道筋には繁華街が存すること、本件会社の上司である樋本佳央は博司が酒が強い方であると認識していたことが認められる。

2  以上の事実によれば、博司は、本件事故当日の午前三時ころから本件事故時までの約二時間の間に、開口の際に明らかに飲酒したことが分かる程度の相当量の酒を飲んでいたこと、本件事故の直接の原因は、原告ら自身も推測しているとおり、前記事故態様に照らせば、博司の居眠り運転であることが窺われるが、右居眠り運転の原因は、博司が本件事故前日夕方から本件事故時である朝方まで一睡もすることなく友人と過ごした睡眠不足に起因していることは否めないにしても、右飲酒による影響があつたことが強く推認される。

3  よつて、本件事故は、博司が酒に酔つて正常な運転ができないおそれがある状態で被保険自動車を運転しているときに生じたものであり、飲酒免責条項に該当するから、被告の主張には理由がある。

二  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判断する。

(裁判官 佐々木信俊)

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